撮影:露﨑浩
北海道から沖縄まで全国に分布する一年生の陸生植物。日当たりの良い道ばたや水田畦畔、空き地のほか、畑地でも極めて普通に見られる。種子で繁殖する。種子は春から初夏にかけて出芽し、日当たりがよく、疎な群落では地際から盛んに分枝して節々から不定根を出しながら這い、地面に固着する。畑圃場や密な群落では分枝は少なく、直立または斜上し、草高は時に3mに達する。葉は線形でやわらかく、幼植物では軟毛が密生するが生育が進むと疎になる。多くは短日性で、盛夏から初秋にかけて一斉に出穂し、概ね3週間後に開花する。花序は手のひら状に3〜8本程度の枝(図鑑では「総」とよぶ)をつけるが、全て1点から分岐するわけではなく、短いながら中軸がある。耕起作業が頻繁な園芸畑や路傍では、早生で日長反応性のない系統が認められるが、ややまれである。種子の寿命は比較的短く、土中では1年で10%未満に減耗する。水田条件では埋土種子の減耗程度は少ないとされる。種子休眠は浅く、散布の翌春にはほとんどの種子が覚醒するが、発芽せずに夏まで土中に残れば弱い2次休眠に入り、暗条件では発芽しなくなる。
過去には代表的な畑雑草とされていたが、除草剤に対する感受性が全般的に高く、また、乾燥した場所を好むことから、除草剤の普及や畑作物の田作の増加に伴って、畑雑草としての重要度は低下している。しかし、水田畦畔では今でも最も普通に見られる雑草である。これは、本種が不耕起条件を好み、刈り取り耐性も強いことから、刈り取り除草や少ない回数の非選択性除草剤の散布で管理されることの多い畦畔では防除が困難なためである。畦畔に密生するとこれを餌としていわゆる斑点米カメムシが増えるといわれる。畑圃場でも不耕起栽培では優占しやすい。作物の草高を超えて葉を茂らすことはなく、通常、草冠を突き抜けるのは穂のみであるため、作物群落の外からはあまり目立たない。しかし、発生密度が高いと乾物重は極めて大きくなるので、雑草害は見かけ以上に大きい。
いわゆる畦畔草の主要構成種として、牛馬の粗飼料として利用されてきた。泌乳牛の嗜好性は青刈トウモロコシよりも若干劣り、乳量も減少するが、乳脂肪は増加するという。相撲取り草(スモウトリグサ、スモトリグサ)という方言で呼ばれることがあるのは、花序を使った遊びに由来するのだろう。
雑草モノグラフ: 小林 浩幸・露﨑 浩・高柳 繁(2005)
『雑草研究』(和文誌)掲載論文:198件(2021年12月時点)
Weed Biology and Management (英文誌) 掲載論文:7件(2021年12月時点)
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