イヌビエ

Echinochloa crus-galli (L.) P.Beauv.
イネ科 POACEAE

中国名: 稗(bai)
英名: barnyardgrass(アメリカ雑草学会)

イヌビエの写真

撮影:中山祐一郎

特徴

一年生草本で、種子で繁殖する。染色体数2n=54の異質六倍体で、4倍体のタイヌビエとは別種。日本には生態的および形態的特徴が異なる3変種が存在する。狭義のイヌビエ(var. crus-galli)は日本全国に分布し、水田を含む低湿地や水はけの悪い畑地で生育する。草丈は大きく、最大150cmになる。小穂の長さは芒を除き3.0~4.0mmで、葉幅や長さ、草型、植物体色、穂の形状、芒、出穂期などの形質で変異に富む。ヒメタイヌビエ(var. formosensis Ohwi)は関東地方以西に分布する水田雑草。草型は直立性。葉身の幅が同属のタイヌビエより狭く、ほっそりと見える。出穂期は日本のヒエ属植物の中でもっとも遅く、9月中旬である。小穂の長さは3.0mm前後。第一小花の護穎は、タイヌビエのC型と同様に膨らみ、その表面は革質化し、光沢がある。種子は嫌気条件下で発芽可能である。ヒメイヌビエ(var. praticola Ohwi)は日本全国に分布し、樹園地や路傍などのやや乾いた場所に生育する。草丈は60cm程度であり、葉身も細く、小型である。草型は直立もしくは半直性。早生で、関西地方では6月下旬から出穂する。小穂は長さ2.5~3.0mm。

雑草としての重要性

世界中の耕地で問題となっている最強害草である。縄文時代の遺跡から出土しており、古い時代より日本に存在した。除草剤が登場するまでは防除に多大な労力を要した雑草であり、水田ではノビエとしてタイヌビエとともに重要雑草とされてきた。イネとは同じイネ科に属し、水稲用除草剤であっても一部のヒエ剤を除き水稲との生理的選択性の幅は大きくない。水稲直播栽培では葉齢進展がイネより早く進むので、除草剤の散布のタイミングが難しくなる。特に乾田直播栽培ではタイヌビエよりイヌビエの方が多く発生する。除草剤抵抗性バイオタイプは、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤、ALS阻害剤、シハロホップブチルで見つかっている。シハロホップブチル抵抗性バイオタイプの中には、代替剤として使用されるペノキススラムにも抵抗性を示す系統がある。

文化・利用

イヌビエから栽培化された栽培種がヒエ(E. esculenta)である。食用もしくは飼料用として岩手県や長野県などで栽培されている。

文献・リンク

『雑草研究』(和文誌)掲載論文:149件(2021年12月時点)
Weed Biology and Management (英文誌) 掲載論文:46件(2021年12月時点)

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