撮影:保田謙太郎
北海道から沖縄までの全国に分布する一年生の湿性植物で、水田をおもな生育地とする。染色体数2n=36の異質四倍体で、6倍体のイヌビエとは別種。種子は、冬期の低温や早春の変温、嫌気条件への遭遇によって休眠から覚醒する。水田の土壌表層が10~15℃に達するころから発芽を開始する。発芽時の種子の酸素要求度は低く、嫌気条件下でも発芽できる。草丈はイネの成長に同調して伸長する。草型は直立性であり、葉身の先まで直立する。葉色はイネに似た緑色である。出穂期は8月~9月上旬である。水田では水稲出穂後に出穂・開花し、収穫前に結実する。穂はイネの穂よりも高く伸びるので、出穂した個体はイネ群落中で目立つようになる。小穂は2つの小花で構成される。第一小花は、無性まれに雄性であり、第二小花は両性である。小穂のサイズは大きく、長さ4mm前後もしくはそれ以上である。第一小花の形状にはF型とC型として区別される種内変異がある。F型の護穎はほぼ扁平である。C型の護穎は膨らみ、その表面は革化し、光沢がある。
弥生時代の水田遺構から出土しており、水田雑草としての歴史は古い。史前帰化植物と考えられている。今日でも主要な水田雑草である。タイヌビエの茎葉はイネによく似ており、イネへの擬態雑草である。苗代や水田での丹念なヒエ抜き作業が、イネによく擬態したタイヌビエを進化させることになったと考えられている。イネと同じイネ科であり、除草剤に選択性を付与しにくいため、一発処理剤には、タイヌビエやイヌビエの防除を目的とした除草剤成分(ヒエ剤)が添加されている。除草剤抵抗性バイオタイプは、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤とALS阻害剤で確認されている。ALS阻害剤への抵抗性では、ALS遺伝子の塩基置換による作用点抵抗性だけでなく、シトクロムP450の高発現によって抵抗性を示す、非作用点抵抗性がある。
中国雲南省でタイヌビエの栽培種が見つかっており、ヒエ酒の原材料として利用されている。
『雑草研究』(和文誌)掲載論文:248件(2022年12月時点)
Weed Biology and Management (英文誌) 掲載論文:14件(2021年12月時点)
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