コウキヤガラ

Bolboschoenus maritimus (L.) Palla
 異名(シノニム):Scirpus maritimus L.
 今後検討すべき学名:Bolboschoenus koshevnikovii (Litv. ex Zinger) A. E. Kozhevn.
 誤って当てられたことのある学名:Scirpus planiculmis
カヤツリグサ科 CYPERACEAE

中国名: 三棱草(san ling cao)
英名: salt-marsh bulrush(Flora of North America)

コウキヤガラの写真

撮影:保田謙太郎

特徴

国外産の種との関係の考え方も含めて分類学上の取り扱いが二転三転した種で、正しいとされた学名が時代とともに変遷しており、和名のほうが安定している。全国に分布し、海岸に近い湿地や水田に生育する多年草。種子と塊茎で繁殖する。種子は硬実で発芽しにくいが、埋土期間が長くなるにつれて発芽率が高まり、硬実が解除されれば光と変温によって発芽が促進される。種子からの出芽時期は塊茎よりもかなり遅い。塊茎は直径約1~2cmの球形で硬い突起を持つ。塊茎から出芽し、本葉を4~5枚抽出した後、株基部から根茎を横に延ばし、分株を作り、そこからさらに根茎を出す。分株の基部が肥大し、多くは土中深度10cm以内に塊茎を形成する。地上部は7~9月に枯死した後、塊茎は休眠し、冬の低温によって覚醒する。塊茎からの萌芽最低温度は5℃から10℃の間で、早春に出芽を開始する。出芽した稈は直立し3稜形で高さ40~100cmとなる。稈は葉鞘に包まれ3~4節で、春から夏にかけて花茎を伸ばし、花序を持つ場合と持たない場合がある。稈の頂部に葉と同じ形の苞葉を1~3枚つけ、無柄もしくは柄のある小穂を3~5個つける。小穂は卵状の楕円形で長さ8~15mm。葉は線形で、葉身は扁平で長さ35~40cm、幅は5~8mm、中肋が太く、葉縁はざらつく。

雑草としての重要性

水田では種子からの出芽は稀で、防除上問題となるのは塊茎からの出芽である。塊茎からの出芽は早春であるため、水稲の栽培地域や作期にもよるが、水田の耕耘や代掻き前に半分以上の塊茎が出芽することが多い。そのため、本種の防除は耕耘や代掻き時に株を土中に埋設し、既発生株の生育を阻害することで、初期除草剤の効果を向上させ、田植え後の発生株については水稲分げつ盛期までに除草するのがポイントである。韓国ではアジムスルフロン、ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチルに抵抗性のあるコウキヤガラが確認されているが、日本国内においては2019年3月現在、除草剤抵抗性バイオタイプの存在は報告されていない。田面水の塩類濃度が5000ppmでも塊茎からの出芽および地上部の生育はほとんど影響を受けないことから、宮城県沿岸部の津波被災地における復旧後の水田で本種が多発し、大きな問題となった。

文化・利用

湿地におけるパイオニア植物として土壌侵食を防ぐ役割が認められている。また本種を栽培することでCuやZnなどの重金属を除去する効果がある。

文献・リンク

雑草モノグラフ: 小山 豊・森田 弘彦・千葉 和夫(2014)
『雑草研究』(和文誌)掲載論文:45件(2021年12月時点)
Weed Biology and Management (英文誌) 掲載論文:1件(2021年12月時点)

©︎2022 日本雑草学会
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