平成23年度学術研究部会について


日本雑草学会は,平成15年度から下記の目的で学術研究部会(以下,研究部会)を設置し,活動を行っています。平成23年度は下記の各位研究部会が活動をおこなっています。各部会へのお問い合せ等は学会事務局までご連絡下さい。

日本雑草学会事務局 〒110-0016 東京都台東区台東1-26-6 植調会館6F 

TEL/FAX:03-3834-6375 E-mail: office@wssj.jp



【学術研究部会名】畑作雑草研究会

【背景・目的】

背景:畑作における雑草研究分野は,世界的視点では雑草科学の最も重要な位置を占める.寒地から亜熱帯までを含む日本の畑作は作目,栽培体系が多様で,水田転換畑のように立地条件も幅広い.日本で畑作の雑草問題に関わる研究者・技術者は独立行政法人,都道府県,企業,大学等に散在しており,これまで日本雑草学会などが蓄積してきた畑作雑草分野の研究資産が有効に伝達・継承されておらず,研究の方向と成果が現場レベルの技術向上に十分生かされていない.

日本の畑作の雑草に関わる諸課題は,より広域的,総合的な様相を呈している.例えば,物流の促進に伴う外来雑草の増加,国際規模での化学企業統合に伴う国内農薬企業の再編成と除草剤開発・販売体系の変化,除草剤抵抗性雑草および耐性作物の侵入・導入,転作拡大による日本国内の畑作農業の大規模化とそれにともなう除草体系の変更,不耕起・省耕起,機械除草等,欧米先行技術の試行的導入とその適用等々,学会として組織化した対応が求められている.

目的:畑作の雑草管理に関わる基礎研究から現地情報まで,研究情報の迅速な共有,今後の研究企画に関する建設的議論とその深化,参加者の資質向上を通じて畑作雑草研究と関連技術の発展を目的とし,あわせて畑作雑草の防除,管理の関係者(雑草学会非会員も含む)への啓蒙・普及活動も行う.


【学術研究部会名】外来雑草問題研究会

【背景・目的】

外来雑草問題に効率的に対処するためには、既存の情報の整理とわかりやすい形での提供、および特に日本の一部にしか生育していない種については、リアルタイムでの分布拡大情報の収集が必須である。特に侵入初期の種については早い段階で適切に対処することにより防除コストの大幅な削減が見込まれ、日本全国の雑草関係者の活発な情報交換により新たな外来雑草への早期警戒システムの実現化が強く望まれる。外来雑草問題研究会は、このような観点から、雑草関係者のネットワークシステムの構築を通じて雑草問題の解決を図ることを目的に活動する。これまで、問題解決を目的にしたネットワークの必要性やネットワーク構築に必要な技術について議論するとともに、具体的な事例として、特定外来植物アレチウリの防除に関するネットワーク構築の有用性の検証などを行ってきた。

本年度は、外来雑草の侵入過程に応じた情報収集・発信の手段の選定を目標に研究会を開催する。具体的には、汎用性の高い地理情報収集ツールの最新情報に関する研究会を開催し、総合討論により議論を深める。


【学術研究部会名】雑草の個体群生態学研究会

【背景・目的】

欧米における雑草学の動向をみると,個体群生態学的アプローチの重要性が次第に高まってきているが、日本の雑草生物学は主として個生態(生理生態),種生態(種内変異)および作物-雑草間競合の解析を中心に進められてきており,雑草を対象にした個体群生態学の基礎は不十分である。本研究会は,雑草学会において埋土種子集団を含む個体群生態学に対する理解を深め、雑草の「空間生態」の研究深化をめざすし、議論を深めることを目的とする。このために研究発表会を開催するほか,電子メールなどを利用して,欧米の研究動向および新刊書等に関する情報の共有を促進する。


【学術研究部会名】雑草利用研究会

【背景・目的】

背景:平成16年に設立した雑草利用研究会は、平成17年度は「水辺環境の修復」、平成18年度は「雑草を利用した緑化」、平成19年度は「沖縄における雑草利用」をテーマに研究会を開催した。さらにタイ国カセサート大学と岡山大学との国際交流に基づく「環境保全セミナー」にてタイ国の雑草利用に関する研究を紹介すると共に、世話人らはH19年度日本雑草学会シンポジウムにて「雑草をきわめる ~歴史に学び、未来を拓く~ 雑草利用学の立場から」というテーマで企画・講演を行った。続く平成20年度は「水田畦畔植生」、平成21年度は「環境修復への雑草活用事例」をテーマに研究会を開催した。また、平成2021年度は世話人の大学における教育プログラム(文科省現代GPプログラム)やイベントと連携して、国内外あるいは学界内外へ雑草の利用に関する発信を行い、特に次世代への啓蒙に対して一定の成果を得た。平成21年度は国内外にさらなる広がりを求めるため、第24回日本雑草学会シンポジウムの開催を担当し、韓国から講師を招聘することにより、雑草を資源循環型社会に利用する理念を検討した。平成22年度は、さらなる国内外における雑草利用研究の推進に向けて、タイ国並びに東アジア諸国との情報交換に力を注いだ。

本年度は、次世代を担う高校生や中学生を中心に雑草利用に関する知識や実例を紹介すると共に、第23APWSS会議にて侵略性のある雑草の利用に関する情報交換を行う予定である。

目的:雑草の機能を解析した上で、新しい技術を導入した雑草利用学への学術的方向づけと学界内外への発信を、分科会的な組織を構築して実施する。


【学術研究部会名】除草剤抵抗性雑草研究会

【背景・目的】

背景:日本で雑草の除草剤抵抗性生物型の出現が初めて報告されてから25年以上が経過した。日本の水稲作においては、現在スルホニルウレア系除草剤(SU剤)抵抗性生物型に有効な除草剤が市販され、SU剤抵抗性生物型の防除に関する問題は沈静化しつつあるようにみえるが、現実問題として、新たな草種での抵抗性生物型の報告が相次いでいる。また、特定の除草剤の継続使用によって新たな除草剤抵抗性生物型が出現する可能性が高い。世界的な観点からすれば、除草剤抵抗性作物の栽培に伴う抵抗性雑草の出現が新たに問題化している。雑草の除草剤抵抗性生物型の抵抗性獲得機構や生物学的特性などに関する知見を集積することは、雑草の除草剤抵抗性生物型に対する対策をたてるうえでも有益であると思われる。

目的:除草剤抵抗性雑草に関するさまざまな情報を共有し、抵抗性雑草防除への生物学的アプローチの今後の展開を探るための情報交換を行ない、さらなる研究活動を展開する。


【学術研究部会名】「雑草と文化」研究会

【背景・目的】

背景:雑草学会はこれまで主に、雑草の生物学的研究ならびに応用(防除・利用)学的研究を蓄積・発信し、社会に大きな貢献を果たしてきた。

さて、雑草は、人間生活と密接な関連をもつ植物であることから、上記のような研究の対象であることに加え、古くから文化的な役割を担い、また文化的な対象となってきた。すなわち、雑草は、遊び、食、教育、文学、芸術ならびに市民生活といった領域において一定の存在感をもった植物となっている。そして、そのような雑草の文化的分野に対する一般市民の興味と関心は、高いものと思われる。

目的:本研究部会では、雑草と上記のような文化的諸分野との関わりの事例を収集・整理・記録し、社会に提示・提言することを目的とした活動を行う。

平成18年度から始めた研究活動より、現代の子どもたちは昔に比べ雑草で遊んだり、雑草を食べたりしなくなったことが示された。雑草の遊びや食は、子どもに、発見の喜びや感動を与え、自然への理解を深めさせる働き・効果があると思われる。雑草は、その民俗、芸術、哲学、市民生活などの場面において、時に人を励まし・季節を告げるなどして人生を豊かなものとする。これらのことから、本研究を継続し発展させることは、人の成長や幸福に貢献すると考えられる。本研究部会の活動目的は、「雑草研究の新領域展開と社会への貢献」と要約できる。


【学術研究部会名】都市雑草研究会

【背景・目的】

私たちの生活の場には植栽植物と非植栽植物(雑草)で構成される多くの緑があり、それらは景観、土壌保全、環境保全上重要な役割を果たすとともに、生活者に憩いの場を提供している。日本におけるこれら広義の緑地の面積は、農耕地の総面積よりも大きいという試算もある。農耕地における雑草問題の主体は栽培植物との競合にあり、対策はこれを抑えることにあるが、緑地雑草では制御の目標が、利用のための雑草植生の質的調節や土地利用や環境・衛生上の問題にある等大きく異なっている。すなわち、‘緑地雑草分野’は耕地雑草とは別のカテゴリーとして取り組むべき科学分野といっても過言ではない。しかしながら、その基礎になる情報は非常に少ない、また緑地の利害関係者も多様で、かつ雑草科学になじみが少ない人々が多い。

この実情に鑑み、平成19年度より都市雑草研究会を設立し、これまで①関係者ネットワークの設置、②緑地雑草についての関係者の意識調査、③関係者(緑地雑草管理実務関係者、研究・開発者、生活者)への雑草科学の普及活動および④公園緑地雑草の実態調査を実施してきた。これらの成果を踏まえ、今後さらにこの分野の発展を期したい。


【学術研究部会名】有機農業技術研究会

【背景・目的】

背景:有機農業とは,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業であり,有害動植物の防除には除草剤など化学的資材を使用せず,耕種的防除,物理的防除,生物的防除,またはこれらの組み合わせのみによって行わなければならない。モンスーンアジアにおける有機農業を実現するには,雑草問題をいかに解決するかが最大の課題であり,有機農業生産者はさまざまな技術を工夫して対策を講じているが,革新・普遍的な技術体系に至ったものはほとんどない。また,これまで雑草学会においても耕種的防除法などの科学的知見は蓄積されてきたが,生態学的雑草管理に基づく有機農業技術としての体系的な研究事例は少ない。

近年,食の安全や環境に対する意識の高まりから,有機農産物への需要が高まってきており,平成18年には有機農業の推進に関する法律も施行されたことから,有機農業に関する技術の研究開発及びその成果の普及が求められている。現在,国内においても民間レベルで様々な有機農業による抑草技術が提案・実施されているが,その科学的・技術的検討は十分に行われておらず,ヨーロッパや北米のような冷涼・乾燥地における生態学的雑草管理の手法を参考にしながらも,水田をベースにしたモンスーンアジアの代替雑草管理技術の確立は急務である。そこで,ますます情報の共有化や技術的課題に対する建設的な議論の場が必要となってきている。

目的:耕種的防除に関する基礎研究から現場事例まで,有機農業技術に関する情報の収集と共有を図るとともに,生態学や雑草科学の視点から有機農業技術の検証に関する課題整理を行うことを目的とする。また,今後の有機農業技術開発の方向性に関する議論を深めていきながら,新たな研究シーズの提案も行う。


【学術研究部会名】雑草の福祉活用研究会

【背景・目的】

背景:日本では人口構成や社会構造の変化にともない人間生活に関わる環境の劣化がすすんでおり、精神的ストレスの回避、老後の生活の潤いなどを保障する社会的システムの構築が求められている。雑草は、半自然のアメニティ空間における優占種であり、人間との関わりのなかで生存しているため、草遊びや軽度の除草作業などの対象として多様な癒し(healing)を人間に提供してきた。しかし、都市化や生活空間の近代化により“自然に得られていた草の癒し”が生活空間から遠のき、機能の存在すら認知されないようになっている。このような背景の中で、園芸植物や緑化植物を生活の質の改善に活用する試みは始まっているが、雑草の福祉的活用の技法については全く研究されておらず、雑草のもつ多面的な機能は十分に活用されないままとなっている。

目的:本提案は、雑草のもつ多面的機能を人間福祉に活用するために必要な技法を確立する目的で、提案に賛同するメンバーの協働により、文献による予備的調査、検討研究会、アンケートによる評価を順次すすめ、活用の技法の確立に検討すべき項目を整理し、個々の項目毎に体系化に必要な作業の行程を構築する。成果は、順次、雑草学会の講演会で公表するともに、ほぼ3年間で骨子をまとめ、シンポジウムやフォーラムを開催して成果の社会的普及を図る。